最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)904号 判決 1955年12月06日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人工藤鉄四郎の上告理由について。
本件異議の申立が異議申立期間経過後約三年一〇ケ月を経てなされたものであることは、当事者間に争のないところであり、しかも、原審の認定によれば、とくに右申立を受理すベき宥恕事由も存在しないというのである。かような事情の下では行政庁はその裁量により異議を受理することは許されないものと解すべきである。
従つて、本件において、訴外藤崎町農業委員会が買収計画に対する異議の申立を不適法として却下することなく、これを受理し、実体につき審理を遂げ棄却の決定をし、これに対する訴願において、被上告人がさらに実体につき審理し棄却の裁決を与えたとしても、本件買収計画に対する出訴期間は、右裁決の日から起算されることとなるものではない。してみると本件買収計画は、すでに法定の期間内これに対し異議の申立をしなかつたことにより確定しているものと解すべきである。
かように買収計画がすでに確定した後、訴願の裁決のみを訴訟の対象としてとらえ、この訴訟において勝訴の判決を得ることによつて、一旦確定した買収計画の効力に影響を及ぼすことは、法の予想しないところというべきであつて、仮に、本件において訴願の裁決につき取消の判決があつたとしても、本件買収計画の効力は、これにより消長をきたすことはないものといわねばならない。
従つて、上告人は、もはや、本件訴願の裁決の取消を求める法津上の利益を有しないものと解すべきである。それ故、原審が上告人の控訴を棄却をすベきものとしたことは、結局、正当である。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)